2008年2学期講義、学部「哲学講義」「アプリオリな知識と共有知」  入江幸男
大学院「現代哲学講義」「アプリオリな知識と共有知」

第10回講義 (200916)

§15 「アプリオリ」の新しい定義の分析

 

1、定義の分析

 

§13で、「アプリオリな言明」を次のように定義した。

 

「アプリオリな言明」=ある問いに対して事実に基づくことなく得られる答え

=ある問いに対して意味に基づいてのみ得られる答え

 

ある問いに対して、事実に基づくことなく意味に基づいて答えを得ることはどのようにして可能だろうか。「意味に基づいて」とは、「問いの意味に基づいて」と言うことである。ここでは、問いの理解が前提されている。問いを理解するのに必要な知識もまた前提されている。したがって、問いを理解するのに必要な知識を前提して、それからの推論によって、問の答えを得るのだと考えられる。

 

 

2 プラトン『メノン』14節から21節のテキストをコピーして読む。

 

問題「メノンの召使はソクラテスから何も教えられずに、想起によって、幾何学の知識を獲得したのか?」

 

問題「メノンの召使が、ソクラテスから何かを教えられたとすれば、それは何か?」

 

答えの断片@:彼がソクラテスから教えられたのは、問と問の解き方である。問は、知識知ではないが、命題知の半製品である。後は、それを完成するだけある。ソクラテスは、問いの答えに近づくときに必要な知識を答えとする複数の問いを少年に問うた。問の理解は、問の前提の理解を必要とするが、少年は、問の理解のためにソクラテスに問い返すことはなかった。しかし、少年は、ソクラテスから、ある正方形の作図方法を教わる。その正方形の面積の求め方も教わる。

 

答えの断片A:ソクラテスは、少年に、ある正方形の作図方法を教えた。ソクラテスは、少年に、その正方形の面積の求め方を教えた。

 

答えの断片B:ソクラテスは、少年に無知に気づかせる、つまり少年に無知の知を生じさせる。しかし、無知の知を教えるのではない。少年が自らの信念が他の知識と矛盾することに気づき、信念を撤回するようにさせるのである。

 

答えの断片C:ソクラテスは、あらゆる知は、想起であるというが、無知の知は想起ではない。信念と想起した知との矛盾によって、生じる知である。

 

答えの断片D:少年は、ソクラテスに教えられたことを前提にして、推論によって、答えを求めている。少年は、ソクラテスの言ったことに基づいて、答えを獲得した。しかし、少年は、ソクラテスの言うことを信用することによって、その答えを正当化したのではない。このとき、我々は、「ソクラテスは少年に何かを教えた」というべきか、「ソクラテスは少年に何も教えていない」というべきかそれは「教える」の使用法の問題であり、どちらでもよいとしよう。

問題は、少年の知は、アプリオリな知であるといえると思える。そこで、定義を次のように修正することが望ましい。

 

 

3、定義の修正

「アプリオリな言明」=ある問いに対して事実に基づくことなく正当化される答え

=ある問いに対して意味に基づいてのみ正当化される答え

 

例えば、教師から「1メートルは、棒Sの長さである」を「1メートル」の定義として習った生徒にとって、「1メートルは、棒Sの長さである」はアプリオリな言明である。彼女は、この言明を教師から教わったのである。彼女は、この言明が、定義にもとづいて正当化されていることを知っている。しかし、定義であることは、教えられて知っているのである。

それと同様に、論理学の知は、意味論的規則によって真である。そしてその意味論的規則は、教えられて知っているのである。

 これらがアプリオリな知だとすると、これらが意味に基づいてのみ知られるからではなくて、意味に基づいてのみ正当化されているからである。

 

 

 

 

レポートについて
 

2008年度後期科目
文学部「現代哲学講義」題目「アプリオリな知識と共有知
大学院「言語哲学講義」題目「
アプリオリな知識と共有知

テーマ:

アプリオリな知識に関する問題を取り上げ、自由に題名をつけてください。もし可能ならば次のような形式にしてください。
      形式 :問題
           問題の説明
           答え
           答えの証明

分量

4000字程度

用紙

A4(ワープロの場合には、40字30行で印刷)

締め切り

卒業修了生は、2009年2月3月、その他の学生は2月15日

提出場所

文学部玄関「入江」のメイルボックス